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【浅倉秋成】『六人の嘘つきな大学生』についての解説と感想

本記事では浅倉秋成さんの小説『六人の嘘つきな大学生』を紹介します。

六人の嘘つきな大学生

六人の嘘つきな大学生

著者:浅倉秋成

出版社:KADOKAWA

ページ数:368ページ

読了日:2024年1月16日

 

浅倉秋成さんの『六人の嘘つきな大学生』。

「ミステリが読みたい!2022年版」国内編8位、

このミステリーがすごい!2022年版」国内編8位、

「2021「週刊文春」ミステリベスト10」国内部門6位。

浜辺美波さん主演で映画化され、十一月に公開される。

 

あらすじ

IT企業のスピラリンクスが満を持して新卒総合職の採用を開始し、

最終選考に残ったのは六人の大学生。

人事部長から六人の就活生に与えられた課題は、

一か月後までにチームを作り上げ、ディスカッションをするというものだった。

内容によっては六人全員の内定もあり得ると言われ、

直後にファミレスで話し合うことになった。

波多野祥吾は、全員で内定を得るために何度も集まり対策を練って、

五人の学生と交流を深めていく。

しかし、本番直前に人事部長から課題の変更が通達され、

それは「六人の中から一人の内定者を決める」ことだった。

仲間だったはずの六人は、一つの席を奪い合うライバルになった。

スピラリンクスの最終選考日、内定を賭けた議論が進む中、不審な封筒が発見される。

封筒の中からは六人それぞれの個人名が書かれた封筒が入っており、

ある封筒を開けると「〇〇は人殺し」という告発文が入っていた。

 

登場人物

・波多野祥吾:立教大学で経済学を専攻している。

・嶌衣織:早稲田大学社会学を学んでいる。

・九賀蒼太:慶応大学の総合政策学部

・袴田亮:明治大学の学生。

・矢代つばさ:お茶の水女子大学で国際文化を学んでいる。

・森久保公彦:一橋大学の学生。

・鴻上達章:スピラリンクス人事部長。

 

・鈴江真希:スピラリンクス勤務。

・波多野芳恵:江戸川区の公務員。

 

ネタバレなしの感想

まず最初に書いておきたいのは、物凄く面白かったということ。

各種ミステリーランキングでも上位に入っていたり、

amazonの評価でも高いのも納得の一冊で読んで損はしないでしょう。

 

ストーリーは就職活動の最終選考に残った大学生六人が

「六人の中で誰が最も内定に相応しいか」を議論するというもの。

就職活動というおそらくほとんどの日本人が経験したか、

するであろうイベントを舞台にしている。

 

読む前は就活を舞台にしたミステリーというのは、

ほんとに面白いのか?と懐疑的であったけれど、

最終選考のグループディスカッションがはじまったところからは

一気に物語にひきこまれて読んでしまった。

このグループディスカッションは密室で二時間半行われて、

内定者を決定するというものだったが、

このディスカッションの現場に、

メンバーそれぞれの後ろ暗い過去が書かれた紙が入った封筒が置かれていたことから

様相が一変していくというもの。

ある種の密室ものともいえるし、デスゲームともいえるかな。

特にグループディスカッションの前に六人が協力して

チームになろうとしてた描写もあり、

六人それぞれの良さや素晴らしさも読者は知っていることもあり、

グループディスカッションの内容はその落差に驚くことになる。

これ以上詳しいことはネタバレになるので書かないけれど、

「就職試験」と「それから」の二部構成になっていて、

作品のクオリティはかなりのものになっている。

もともと評価が高い作品だけあって、かなり楽しめたし、印象に残った一冊になった。

 

 

ネタバレありの感想

まずは最初の六人がチームとして活動することによって、

六人それぞれの良さであるとか彼らが親密になる過程が描かれていて、

これが一種のフリになっている。

その後のグループディスカッションでそれぞれの過去の罪が明らかになったり、

人間臭い感情が描かれることによって、オチの役割を果たしている。

しかも、就職活動の八年後のインタビュー形式が合間合間に入ってくることにより、

それぞれの人間がどういう人間か分かることによって、

より強烈な印象を与えることに成功している。

このインタビューも最初は波多野祥吾がインタビュアーだと思わせるけれど、

結局は嶌衣織で、波多野祥吾が「犯人」扱いされて、「就職試験」は終わる。

 

「それから」は嶌衣織視点で物語は進行していき、

「犯人」扱いされた波多野祥吾が病死したのがきっかけで、波多野の妹の芳恵から

嶌に連絡があり、封筒事件の真相を探っていく。

「犯人」扱いされた波多野は生前に事件を調べていて、USBに残していた。

封筒事件の犯人は九賀で告発された人たちもそれぞれ事情があったというオチ。

最初の六人の協力から、グループディスカッションがあり、

さらには告発の真相という形で二転三転してるのも非常に

うまくて読ませるものがある。

犯人が愛したものが九賀の口癖のフェアで、

就職活動をテーマにしてるだけあって、しっかりと意味があるものになっている。

唯一明かされていなかった嶌の後ろ暗い過去は、

兄が薬物依存症であったということだけど、この兄が相良ハルキという歌手。

この相良ハルキは序盤から名前が出てきて意味深だとは思っていたけど、

最後にしっかりと伏線が回収されるというオチ。

「犯人」扱いされた波多野はグループディスカッション中に自白したように、

借りたスーファミのソフトを返しそびれていたのも事実。

またただの「いい人」のような波多野が事件の真相を

スピラリンクスに伝えようとしていたという、

人間らしいオチも含めてかなり良かった。

サークルの仲間からつけられた好青年のふりをした腹黒大魔王という

伏線も回収してて完璧すぎるオチ。

 

多数の伏線や叙述要素が巧みに使われていて、驚きを感じながら読むことができる。

また、それでいて最後はストレートに終わることによって

読後感は素晴らしいものになっている。

前評判通りの一冊で、読んで良かった思えた。