本記事では米澤穂信さんの小説『儚い羊たちの祝宴』を紹介します。
儚い羊たちの祝宴
著者:米澤穂信
出版社:新潮社
ページ数:329ページ
読了日:2023年7月13日
五篇収録の連作短編集。
・身内に不幸がありまして
あらすじ
村里夕日は親がおらず小さな孤児院にいたが五歳になった時に丹山家に引き取られた。
夕日は丹山家では吹子お嬢様の身の回りの世話をすることになる。
吹子が大学生になり「バベルの会」という読書会に入り、
「バベルの会」の夏休みの読書会の二日前の七月三十日に
丹山家の屋敷が丹山家の息子宗太に襲われる事件が発生する。
登場人物
・村里夕日:丹山家の使用人。
・丹山吹子:丹山家の長女。「バベルの会」に所属している。
・丹山高人:吹子の父親。
・丹山宗太:丹山家の長男。吹子の兄にあたる。
・大旗神代:吹子の大叔母。
・大旗満美子:吹子の伯母。
ネタバレありの感想
タイトルの「身内に不幸がありまして」を最初に確認していれば
ある程度はオチは想像できるかな。
私は読んでる最中にタイトルを確認してしまったので何となく分かった。
この手ので作中に出てくる本を読んでいたことがないんだよな。
・北の舘の罪人
あらすじ
内名あまりは母親が死ぬと母親の遺言に従い六綱家に向かう。
あまりは六綱邸では別館である北の舘に住むことになり、
北の舘には『先客』である六綱早太郎がいた。
あまりは早太郎の世話と別館から出さないことという役割を与えられる。
一方で早太郎から買い物を頼まれる。
登場人物
・内名あまり:六綱虎一郎の妾の子。
・六綱早太郎:六綱虎一郎の長男。
・六綱光次:六綱家の現当主。六綱虎一郎の次男。
・六綱詠子:六綱虎一郎の長女で早太郎と光次の妹。「バベルの会」に所属している。
ネタバレありの感想
光次に早太郎が殺されたと思わせて実際の犯人はあまりというのは
読んでで想像はついたかな。
最初の方にあった鼠を殺したり、ってのは読んでてものすごく印象に残るから、
伏線なんだろうなってのは想像つくかな。
ラストだと早太郎はあまりに殺されたことを分かってはいたんだろうけれど、
この後あまりと詠子それに光次がどうなるのかは分からない。
・山荘秘聞
あらすじ
八垣内にある別荘「飛鶏舘」の管理を任されることになった屋島守子。
「飛鶏舘」は貿易商の辰野が妻のために建てさせた別荘。
ある日、熊が近くにいるか確かめていると崖の下に倒れている人を見つける。
生きているその人を「飛鶏館」に連れていくと、
越智靖巳と名乗り山岳部の仲間が助けに来ると言い寝てしまう。
その後「飛鶏館」に人が訪れるが。
登場人物
・屋島守子:飛鶏館の管理人。前降家で働いていた頃に
「バベルの会」の会員たちの世話をしたことがある。
・越智靖巳:産大山岳部の部員。
・原沢登:産大山岳部の部長。
・歌川ゆき子:飛鶏館より少し下ったところにある別荘の管理人夫婦の娘。
ネタバレありの感想
『儚い羊たちの祝宴』の中で一番好きな話でこれは完全にやられた。
私はゆき子同様に地下にある肉は越智だと思ったけれど、
実際には地下にある肉は熊の肉で、
屋島はただ単に飛鶏館にお客様を迎え入れたいだけということらしい。
煉瓦のような塊は札束でいいのかな。
屋島守子もかなりの狂気がある人物ではあるし、
かなり迷惑なことをやっているけれど、他の話と比べたら読後感はマシかな。
・玉野五十鈴の誉れ
あらすじ
小栗家の長女の純香は
十五歳の時に祖母から玉野五十鈴という使用人を与えられる。
五十鈴から如才なさを学んだ純香は大学に進学し「バベルの会」の会員になるが、
伯父が殺人事件を起こしたことによって、
祖母から『カエレ』という電報が届き従うが。
登場人物
・小栗純香:小栗家の長女。
・玉野五十鈴:純香の使用人。
・小栗香子:純香の母親。
・お祖母さま:小栗家の当主。純香の祖母。
・お父さま:純香の父親。旧姓は蜂谷。
ネタバレありの感想
途中までは五十鈴が純香を見捨てたのかと思ったけれど、
結局は五十鈴は純香の望みを叶えているという話なんだけれど、
読後感は決して良くはないかな。
お祖母さまはどうでもいいんだけれど、太白の死に方が悲惨すぎるからな。
しかも『始めちょろちょろ、中ぱっぱ。赤子泣いても蓋取るな』ってのは
ブラックユーモアというかただ単にブラックすぎるかな。
話としては面白いけれど。
・儚い羊たちの晩餐
あらすじ
女学生が荒れたサンルームで一冊の本を手に取る。
それは本ではなく、一冊の日記であった。
最初の頁には「バベルの会はこうして消滅した」と走り書きがあって。
登場人物
・大寺鞠絵:「バベルの会」の会費を払えずに除名されてしまう。
・パパ:鞠絵の父親。
・夏:厨娘と呼ばれる料理人。
・文:夏の助手。
ネタバレありの感想
最高に読後感が悪い話。
作中に出てくるアミルスタン羊の元ネタのスタンリイ・エリンの『特別料理』
は知らないけれど、要は人肉ということかな。
鞠絵は「バベルの会」の会長だけが夏に刈られると思っていたら、
厨娘の料理法を知ったあとは全員が刈られることを知るというオチ。
総評
文庫本の説明には優雅な「バベルの会」をめぐる邪悪な五つの事件とあるけれど、
「バベルの会」自体は直接的にはほとんど関わってこない。
一応連作短編集にはなってはいるけれど、
ほとんど独立してるといって良いんじゃないかな。
設定的には全体的に浮世離れしてる感じではあるけれど、
物語的にはそれが決して悪い方には作用してないと思う。
ミステリーとしては米澤穂信さんなのでフェアだし綺麗にまとまっている。
もっとも読後感は最悪に近いとは思うので読む場合はご注意を。