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【今村昌弘】『でぃすぺる』についての解説と感想

本記事では今村昌弘さんの小説『でぃすぺる』を紹介します。

でぃすぺる

でぃすぺる

著者:今村昌弘

出版社:文藝春秋

ページ数:440ページ

読了日:2024年1月13日

 

今村昌弘さんの『でぃすぺる』。

ジュブナイル×オカルト×本格ミステリ

「ミステリが読みたい!2024年版」19位。

 

あらすじ

オカルト好きの小学六年生の木島悠介(ユースケ)は、

二学期のはじめにクラス内の係決めの際に、掲示係に立候補する。

掲示係になれば、自由に壁新聞を作ることができ、都市伝説や心霊現象を中心にした、

オカルト記事のコーナーを作ることができると考えたためだった。

ところが、一緒に立候補してきたのは

一学期にはクラス委員長を務めた波多野沙月(サツキ)、

さらには法事で学校を休んでいて係決めに参加できなかった転校生の畑美奈(ミナ)。

真面目なサツキが一緒ではオカルト記事を書くことができないのではないかと

ユースケは不安に思っていると、

サツキの方から『奥郷町の七不思議』について調べないかと提案される。

サツキは去年の秋に殺された従姉の波多野真理子(マリ姉)が

ノートパソコンに残した『奥郷町の七不思議』の六つの怪談と

『七つ目の不思議を知ったら死ぬ』というテキストを見たためだった。

マリ姉は怪談を集める趣味もなく、わざわざ『七不思議』を残したのには

意味があるはずと考えて、サツキは掲示係になり、『七不思議』の謎を解こうとする。

ユースケたち掲示係三人が挑む、小学校生活最後の謎。

 

登場人物

木島悠介:小堂間小学校六年生。ユースケ。掲示係。オカルトが好き。

・波多野沙月:小堂間小学校六年生。掲示係。一学期の委員長。父親は弁護士。

・畑美奈:小堂間小学校六年生。掲示係。四月に来たばかりの転校生。

 

・高辻:小堂間小学校六年生。アイドルが好き。

・樋上:小堂間小学校六年生。

    クイズが好きで、大阪であった大会にも出たことがある。

・蓮:小堂間小学校六年生。運動が得意。

・城戸ありさ:小堂間小学校六年生。城戸写真店の一人娘。

・野呂:小堂間小学校六年生。城戸ありさといつも一緒にいる。

 

・波多野真理子:故人。サツキの従姉。マリ姉

        地元の銀行に勤めていた。仁恵大学の卒業生。

        去年の十一月に運動公園のグラウンドで殺されていた。

・豊木:魔女。「魔女の家」に住んでいる車椅子のお婆さん。

・ユースケの父ちゃん:ユースケの父親。酒屋の経営者。

・ユースケの母ちゃん:ユースケの母親。名前は「秋」

           数年だけ町を出て会社勤めをしていた。

・ヒロ:ヒロ兄ちゃん。ユースケの歳が離れた幼なじみ。奥郷署の交通課の警察官。

・柴田:柴田のじいちゃん。ユースケの親の酒屋の常連客。

・作間寛人:五年ほど前からの波多野真理子の顔見知り。

・時任:故人。仁恵大学の教授。去年の十一月に桜塚トンネルで亡くなっていた。

・坂東景太郎:医者。坂東病院の院長の息子。

・小暮:大学院生。マリ姉と一緒に時任教授のゼミにいた。

・金森:故人。亡くなる前は木工所で働いていた。

 

・はるやん:動画配信者ゴースト・ブラザーズ。本名は大谷春彦。

・あきと:動画配信者ゴースト・ブラザーズ。本名は大谷彰人。

 

・尾埜上樹一:町長。

・水無瀬:役場の職員。

・占部:奥郷町図書館の職員。

・小日向志津夫:故人。建築家。

        小堂間小学校の校舎や奥郷町の文化ホールなどを設計した。

・大平丹治:故人。『鉱山とともに 五十年』の著者。柴田の知り合い。

 

ネタバレなしの感想

ジュブナイル×オカルト×本格ミステリという謳い文句通り

多くの要素が詰め込まれいて、

これは今村昌弘さんの『屍人荘シリーズ』でもオカルト要素と

本格ミステリ要素があったことを考えると、今村さんらしくなっているのかな。

主人公の小学六年生のユースケ達が住む奥郷町の七不思議と、

七不思議を残して殺されたマリ姉の事件の謎を追うことになる。

マリ姉の事件の謎も大きく関わってくるんだけど、

基本的には七不思議というオカルトを調べることから、

事件の真相を探る形になっているので、

本格ミステリ要素はそこまで期待しない方がいいかもしれない。

中学受験が控えているサツキ、離婚した父親を心配させまいとするミナなど、

ジュブナイル要素も思ったよりもあって楽しめるようになっている。

 

私はオカルト好きということもあるし、ジュブナイルも好きなので結構楽しめた。

 

 

ネタバレありの感想

最初に『奥郷町の七不思議』とマリ姉の殺人事件という大きな謎を提示しているので、

私は物語にひきこまれたし、それからそれぞれの怪談の謎を描き、

解き明かしていくというのは非常にうまく感じた。

長編だけど、怪談の謎以外にも日常の謎もあったりするので、

中だるみもほとんどしなかったのも良かった。

さらには魔女だったり、柴田のじいちゃんや城戸ありさなど

脇役キャラも良い味を出しているし、

奥郷町という田舎町も物語の舞台にはピッタリ。

ノックスの十戒が出てきたり、『三笹峠の首あり地蔵』の叙述トリックなど

ミステリーマニアも楽しめるようになっているのは流石。

 

ただ、ラストというか事件の真相は結構ガッカリしてしまった。

マリ姉の事件の真相は自殺で、

その理由は翌日の祭りを中止させるためって、

それなら祭り会場を壊して翌日の祭りを実行不可能にすれば良かったんじゃないかと。

年齢的にも若いマリ姉が自殺するというのは、いまいち納得できなかった。

 

あとは配信者のゴープラが死んだことに関してはユースケたちは何かしら感じて、

それを乗り越えてでも、謎を解き明かすみたいな描写は必要だったんじゃないかな。

 

終盤まではかなり面白かったし、オカルト要素自体は受け入れることはできたけど、

最後だけはちょっと尻すぼみかな。

サツキが両親を説得して中学受験を辞めたり、ミナが小説を書きはじめたりと

物語の終わり方としては良かった。

また、邪心の半身の謎などもあることから、

もしかして続編もあるかなという終わり方になっている。