本記事では東野圭吾さんの小説『プラチナデータ』を紹介します。
プラチナデータ
著者:東野圭吾
出版社:幻冬舎
ページ数:493ページ
読了日:2024年8月11日
満足度:★★☆☆☆
二宮和也さん主演で映画化されている。
あらすじ
国民の遺伝子情報から犯人を特定するDNA捜査システムが開発され、
実際の捜査にも絶大な効果を発揮していた。
ある日、若い女性が頭部を銃で撃たれるという連続婦女暴行殺人事件が発生し、
残された精液によるDNAデータからすぐに犯人は割り出されると思われていたが、
DNA検索システムは「NF(NOT FOUND)13」という結果を示した。
これは類似する遺伝子が登録されていない13番目のケースというものだった。
そんな中、DNA捜査システムの開発者である蓼科兄妹が殺害されてしまう。
蓼科兄妹を殺害するのに使用された拳銃は、
NF13事件で使われたものと同一のものだった。
現場に落ちていた毛髪から特定された犯人は、
システム開発の責任者である主任解析員である神楽龍平だった。
神楽は二重人格者で、もう一人の人格である「リュウ」に
事件当時のことを確認しようとするが。
果たして、神楽は警察の包囲網をかわし真相に辿り着けるのか。
登場人物
・神楽龍平:警察庁特殊解析研究所の主任解析員。
DNA捜査システムのプロファイリング・システムの開発者。
父の昭吾の死をきっかけに二重人格「リュウ」が出現するようになった。
・浅間玲司:警視庁捜査一課の刑事。警部補。
・戸倉:浅間玲司の後輩。警視庁捜査一課の刑事。
・那須:警視庁捜査一課の課長。
・木場:浅間玲司の直接の上司。警視庁捜査一課の係長。
・田代:鑑識の責任者。
・志賀孝志:警察庁特殊解析研究所の所長。
・白鳥里沙:DNA捜査システムの技術を習得するため、
アメリカから派遣されたDNAプロファイリング研究者。
・蓼科早樹:事件の被害者。DNA捜査システムの検索システムの開発者。
天才的数学者。顔の右側に大きな痣がある。
・蓼科耕作:事件の被害者。蓼科早樹の兄。
・水上洋次郎:新世紀大学の脳神経科の教授。蓼科早樹の担当医。
多重人格研究の第一人者。
・スズラン:リュウの恋人。神出鬼没で、いつも突然神楽の前に姿を現す。
・神楽昭吾:故人。神楽龍平の父親。孤高の陶芸家と呼ばれていた。
・桑原裕太:渋谷のラブホテル女子大生殺害事件の犯人。
・富山:新世紀大学病院の警備員。
・丸沼玲子:『ラウンド』の店主。
・塩原:『東京都安心生活研究所』の所長。
・勝山悟郎:ハイデンの購入者。
・玉原:暮礼路署の刑事課所属の刑事。
・北峰:暮礼路署がある県の県警本部長。
・チクシ:暮礼路市の僻地の住人。元建築士だから略してチクシ。
・サソリ:暮礼路市の僻地の住人。以前は暴力団が経営するバーのバーテン。
ネタバレなしの感想
科学捜査が今よりも進み、DNA捜査が発展した社会で生じるかもしれない
管理社会の恐怖や問題が描かれている。
このテーマを神楽龍平という二重人格の研究者と、
組織のやり方に反発しながら事件の真相を追おうとする刑事・浅間玲司を
主人公として描いている。
さらには謎の少女・スズランの存在や芸術、人間の心というものも盛り込まれていて、
エンターテインメント性に富んだ作品になっている。
ただ、正直にいうとSFとしてもミステリーとしても、
社会派小説としてもかなり中途半端になっていて、
とにかく色んな要素を放り込んであるだけにしか思えない。
具体的に何を訴えたかったのはよく私には分からなかったし、
かなり散漫な印象を持った。
私は本書をあまりおすすめはできない。
ネタバレありの感想
東野さんは物語の導入が抜群にうまい作家だと思っているけれど、
今作は物語導入部のDNA捜査の説明が長いのと、
神楽龍平の二重人格の箇所もかなり退屈気味で、
なかなか没頭することができなかった。
物語が動き出すのは、やっぱり蓼科兄妹が殺されて、
DNA捜査システムで神楽が犯人であると特定されたところから。
ここからは逃げる神楽と追う刑事の浅間玲司、不思議な存在の少女・スズラン、
なにやら怪しい存在の白鳥里沙、
特殊解析研究所の所長・志賀孝志も絡んできて物語は進んでいく。
スズランが幻覚というのは、現れ方やカメラ、新幹線での会話などから
何となく想像はできた。
ただし、教会の話だけは最後まで読んでもいまいち納得はできなかった。
そしてスズランの正体というのか、
リュウからは蓼科早樹がスズラン(絵の少女)のように見えていたっていうのなら、
私にはかなり残酷にしか思えなかった。
浅間の方は小説ではよくいる刑事で、
小説としては読みやすいけれど、
逆にいうと特に何か印象に残るようなキャラクターではない。
おそらく神楽との対比の存在として描きたかったんだろうけど、
どちらもステレオタイプな域を脱しなかった印象。
『プラチナデータ』の設定自体は、なるほどと思える部分もあるけれど、
そこに水上洋次郎が関わっていたとなると、あまり納得はできず。
なので事件の真相とかNF13の正体を知ったとしても、
それほど面白さを感じることができず、盛り上がることができなかった。
しかも、その水上もマッドサイエンティストというステレオタイプな
キャラクターになっているのも含めてちょっと興ざめしてしまった。
もっとも最後の終わり方は神楽と浅間ともにベタといえばベタではあるけれど、
悪くはないので、読後感そのものは決して悪くはないのが東野さんの作品らしい。