【荻原浩】『笑う森』についての解説と感想

本記事では荻原浩さんの小説『笑う森』を紹介します。

笑う森

笑う森

著者:荻原浩

出版社:新潮社

ページ数:464ページ

読了日:2024年9月25日

満足度:★★★☆☆

 

荻原浩さんの『笑う森』

 

あらすじ

「小樹海」と呼ばれている神森の遊歩道で

ASD(自閉症スペクトラム障害)の5歳児・山崎真人が行方不明になった。

警察と消防が懸命な捜索を行ったが真人は見つからず、生存は絶望視されていた。

しかし行方不明から一週間後、

「合体樹」のひとつである夫婦の木の洞から真人が発見される。

しかし真人は、体重も特に減っておらず、知らない言葉を口走るようになっていた。

誰かと接触していたのではないかと疑問を持った真人の叔父・冬也は、

神森で真人が誰といたのかを調べようとするが。

 

主な登場人物

・山崎真人:保育園児。ASD(自閉症スペクトラム障害)。5歳。

・山崎岬:山崎真人の母親。洋食店のコック。

・山崎冬也:山崎真人の叔父で春太郎の弟。保育士。

 

・松元美那:紳士服売場の派遣社員。32歳。

・戸村拓馬:ユーチューバー。『タクマのあくまで原始キャンプ』という

      チャンネルを持っている。夜間の清掃のアルバイトをしている。36歳。

・谷島哲:暴力団員。

・畠山理美:中学校の国語の教師。

 

・田村武志:喫茶店『リリーベル』の経営者。

      下森消防団団員。7歳の娘・陽菜がいる。

・田村百合:田村武志の妻。

・清田一也:デパート従業員。父親は老舗和菓子チェーンの社長。30歳。

・苅山心亜:畠山理美のクラスの生徒。中学三年生。

・谷島カイラ:谷島の妻。

・莉里花:谷島の娘。

・山崎春太郎:故人。山崎真人の父親。生前は自動車整備工場に勤務していた。

 

ネタバレなしの感想

本作『笑う森』は行方不明になっていた5歳の男の子・山崎真人が

森で発見されるシーンから物語が始まる。

真人は自閉症スペクトラム障害(ASD)のためにコミュニケーションをとることが難し

いこともあり、余計心配されていた。

しかも行方不明になったのは「小樹海」とも呼ばれている神森で、

1週間が経過しており生存が絶望視されていた中で発見されたのは

奇跡的なことであった。

しかし不思議なことに1週間も森の中にいたのに真人は特に痩せてもおらず、

真人のものではない赤いマフラーを巻いていた。

 

この空白の1週間に真人に何があったのか?が本作のメインの謎になっている

この謎を調べることになるのが主に真人の叔父である冬也。

真人には生還後明らかに変わった点がいくつかあり、

知らない言葉を口走るようになったり食べ物の好き嫌いが減ったというもので、

保育士の冬也が真人の言動に注目して、

真人が出会ったかもしれない人々を探すというのが現在パートのメインになっている

この現在パートと空白の1週間を描いた過去パートが

交互に進んでいく構成になっており、

真人がどんな人と出会ったかはかなり早い段階で明らかになっている。

なので誰と出会ったではなく、出会った時に何があったか、どういう影響があったかが

物語のメインになっている

 

読む前は、かなり重くシリアスなテーマで描かれているのかと思ったけれど、

軽妙なタッチで描かれているので肩肘張らないで読むことができた。

もっとも殺人や自殺、それに暴力団員であったりが

かなりコミカルに描かれているのと、

真人の一週間もかなりファンタジー的なのでリアリティに欠ける部分がある。

物語の肝である、真人に出会った事情を抱えた人間が彼に影響されて、

変化や成長していく部分は素晴らしかった

ベテラン作家の荻原浩さんの作品ということで安定した面白さの一冊になっている。

 

笑う森

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ネタバレありの感想

物語冒頭で山崎真人が助かるので良く言えば安心して読むことができるけれど、

悪く言えばどうしても先の展開が読めてしまう部分があるので中々評価が難しい。

おそらくこの部分を踏まえて最後に実は本当のクマに出会っていたというオチになって

いるのだろうけれど、あまりにもファンタジーすぎてちょっとついていけなかった。

 

殺人を犯して死体を遺棄しようとしている松元美那と

組のお金を盗んで逃亡中の谷島哲という罪を背負った人間が

純粋な山崎真人と出会って影響を与え合うというのは話としても良かった

松元美那は人を殺している割には語り口が結構軽い部分も当初はあったけれど、

最終的には警察に捕まって罪を償うというのも悪くなかった。

警察に捕まった後は冬也視点で松本美那を見ていることによって、

改心してるように見えるのも巧い。

谷島哲は最後は残念な形になるけれど、お金自体は娘に渡ったので良しとしよう。

 

戸村拓馬は森での出来事だけではなく、その後のネット関係での活躍も含めて

結構重要な役割を担うだけあって、かなりキャラクターが立っていた

拓馬は真人を森に置いていったのはどうかと思うけれど、

その後の成長や変化というのは物語としては分かりやすいし、

読んでいて楽しかった

 

問題は畠山理美関係でユーモラスに描いているけれど、

内容としてはSNS関係に関しては、

結構きついものがあるのでいまいち笑えなかったし、当然共感もできなかった。

昨今話題のSNSのフェイクニュースの問題などは結構な分量描かれているけれど、

真人関係の話とは焦点がズレている感もあって、私には合わなかった。

 

読後感は素晴らしいし綺麗にまとまっているので、満足感は高かった

 

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