【伊坂幸太郎】『アヒルと鴨のコインロッカー』についての解説と感想

本記事では伊坂幸太郎さんの小説『アヒルと鴨とコインロッカー』を紹介します。

アヒルと鴨のコインロッカー

アヒルと鴨のコインロッカー

著者:伊坂幸太郎

出版社:東京創元社

ページ数:384ページ

読了日:2024年5月5日

満足度:★★★★☆

 

伊坂幸太郎さんの『アヒルと鴨とコインロッカー』。

第二十五回吉川英治文学新人賞受賞作。

このミステリーがすごい!2005年版」2位、

「2004「週刊文春」ミステリベスト10」4位。

2007年に映画化されている。

 

あらすじ

大学生になった椎名は、引っ越し先のアパートの隣人で

悪魔めいた印象の長身の青年・河崎にいきなり

「一緒に本屋を襲わないか」と誘われる。

河崎の目的は一冊の広辞苑

そんなおかしな話に乗る気などなかったが、断り切れなかった椎名は、

本屋から広辞苑を奪う手伝いをすることになってしまう。

決行の夜、モデルガンを手に書店の裏口に立つことになってしまった。

 

二年前、ペットショップのアルバイト店員の琴美は、

恋人であるブータン人のキンレィ・ドルジと

一緒にペットショップからいなくなったクロシバを捜していた。

そんな中、三ヶ月ほど前から市内で連続して起きているペット惨殺事件の

犯人たちに出会ったことにより、琴美が目を付けられてしまう。

 

登場人物

現在

・椎名:現在パートの語り手。大学生。実家は靴屋

・河崎:椎名が住むアパートの一〇三号室の男性。

    椎名にいきなり「一緒に本屋を襲わないか」と持ちかけてきた。

・麗子:ペットショップの店長。

・山田:椎名の大学の友達。関西人。

・佐藤:椎名の大学の友達。車好き。

・江尻:書店の店員。店長の息子。

 

二年前

・琴美:二年前パートの語り手。ペットショップでアルバイトをしている女性。

・キンレィ・ドルジ:留学生として大学に通っている。ブータン人。二十三歳。

・麗子:琴美がアルバイトをしているペットショップの店長。

・河崎:大学院生。琴美の元恋人。

・和久井:オードリーというペットショップの経営者。

 

ネタバレなしの感想

伊坂幸太郎さんの代表作の一つと言っても過言ではないであろう、

『アヒルと鴨とコインロッカー』。

おそらく私が伊坂さんの本で最初に読んだのが本作だったはずで、

このミステリーがすごい!2005年版」2位にランクインしているのを見て、

本作を読んだはず。

なので、本作に関してはミステリーものとしても高い評価を受けているので、

ミステリー好きにも満足できる一冊になっているのは間違いない。

 

内容に関して書いておくと、

モデルガンを持って書店の裏口に立つ「僕」という印象的なシーンから、

物語は開始する。

この「僕」=大学入学のために引っ越してきて、

アパートで一人暮らしをはじめた椎名を物語の語り手にしているのが

現在パートになっている。

この現在パートは、いきなり本屋襲撃に誘われて、

実際に本屋襲撃をするということで、かなり軽いタッチで描かれている。

 

次にペットショップに勤める女性・琴美(=わたし)を語り手にしているのが、

二年前のパートになっていて、二つの物語が交互に語られていく。

この二年前パートは、ペット殺しの犯人らしき人間たちも関わってくることもあり、

生々しさを感じさせるものになっている。

 

二つの物語は、登場人物が重なっていることでも分かるように、全く無関係ではなく、

読み進めるうちに繋がりが明確になっていくという形になっている。

今回久しぶりに読んだけれど、ミステリー要素を抜きにしても、

かなり感情を揺さぶられたので、やはり良い話であるのは間違いない。

ただ、いわゆる面白いとか楽しいというようなものを期待して読むと、

期待には沿えない可能性があるので要注意。

ネタバレありの感想

およそ二十年振りぐらいということもあって、

読み始めた最初は内容をほとんど覚えていなかったけれど、

41ページの「オヤジの店を継がなくちゃいけねえんだよ」のところで、

書店襲撃の理由を推察することができたので、

そこから現在パートの河崎=ドルジのいわゆる叙述トリック

あったことを思い出した。

 

再読ということで、叙述トリックの驚きを感じることはできなかったけれど、

それでもかなり巧さというものは感じることができた。

初見で読めば、間違いなくかなりのインパクトがあるだろう。

物語としては、二年前パートがかなり生々しく描かれていて、

現在パートに琴美が登場しないことから、読み進めるのも結構きつかった。

理不尽なものというのは、

物語でもあまり読んでいて気持ちが良いものではないのを痛感した。

二年前パートのラストが予想通りで、かなり切なさや哀しみがある話だし、

現在パートは多少の痛快さや爽快さもあるけれど、

全体としてはどうしても重苦しい印象になってしまう。

レッサーパンダを盗んだ少年と少女や、

ボブ・ディランの「ライク・ア・ローリングストーン」を流したラジカセを

コインロッカーに入れて「神様を閉じ込める」というラストは伊坂さんらしいし、

私はかなり好き。

 

小ネタ

椎名の横浜に住む叔母は、名前が祥子で、喫茶店を経営していて、

旦那の名前が響野ということで、

陽気なギャングが地球を回す』に登場する響野の妻の祥子。