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【伊坂幸太郎】『砂漠』についての解説と感想

本記事では伊坂幸太郎さんの小説『砂漠』を紹介します。

砂漠

砂漠

著者:伊坂幸太郎

出版社:実業之日本社

ページ数:512ページ

読了日:2024年5月25日

満足度:★★★★★

 

伊坂幸太郎さんの『砂漠』。

実業之日本社文庫限定の書き下ろしあとがきが収録されている。

 

あらすじ

仙台の国立大学に入学した何事にもどことなくさめた性格の北村は、

四人の学生と知り合った。

軽薄で女好きの鳥井、超能力が使える南、美人の東堂、

そして極端に熱くまっすぐな西嶋。

麻雀に勤しみ、合コンに励み、ボウリング勝負、通り魔との遭遇、

捨てられた犬の救出、超能力対決などを通じて互いの絆を深め、

それぞれを成長させてゆく。

 

登場人物

・北村:国立大学の法学部。岩手県盛岡出身。

    鳥井からは鳥瞰型の学生に分類された。

・南:国立大学の法学部。東京都練馬区出身。超能力を使うことができる。

・東堂:国立大学の法学部。仙台出身。

・西嶋:国立大学の法学部。千葉県出身。パンクロック好きで、

    クラッシュとラモーンズが好き。

・鳥井:国立大学の法学部。神奈川県横浜出身。南とは中学の同級生だった。

 

・鳩麦:アパレル店員。北村たちより一歳年上。

・古賀:西嶋のバイト先の社員。

・莞爾:国立大学の法学部。幹事役の莞爾。

・山田:国立大学の経済学部。鳥井の近所に住んでいる。写真の加工が趣味。

・長谷川藍子:短大生。北村たちの合コン相手。

阿部薫:キックボクシングのチャンピオン。

・礼一:ホスト。長い前髪。本名は佐藤一郎

・純:ホスト。短髪。

・仲村:捜査三課の刑事。嶽内邸の事件の担当。

・嶽内善二:北村達が見張ることになった家の主。

・麻生晃一郎:超能力否定派。社会文化人類学者。

・鷲尾:自称超能力者。住宅販売メーカーの営業職。

・プレジデントマン:通り魔。西嶋が「プレジデントマン」と名付けた。

          中年の男性に「大統領か?」と訊ねて、

          殴って、金を持っていく。

 

ネタバレなしの感想

私の今まで読んだ本の中でベスト5を挙げるなら、

間違いなく入ってくるのが伊坂幸太郎さんの『砂漠』。

本書は、大学生の日常的な物語で、青春小説になっている。

超能力を使える人間は登場するし、通り魔との遭遇などもあるけれど、

基本的には大きな事件は起きない。

ストーリーは、出会いの春から夏、秋へと進み、冬になり、

それからまた春を迎えたところで終わる。

 

最初に読んだ際に印象に残ったのは、西嶋という登場人物。

読んだことがある方なら、分かると思うけれど、

西嶋はかなり強烈なキャラクターをしていて、

独特な口調も含めて物凄く印象に残る人物になっていて、

とにかくこの西嶋のことがお気に入り。

しかし、何回か読むとより実感するけれど、西嶋に限らず五人の主人公たちは、

それぞれ個性的であると同時に作中で成長していくので、

彼らの変化を見るのも非常に楽しい。

 

主人公格の五人だけでなく、鳩麦さんや、幹事役の莞爾など印象的な登場人物。

さらには彼らのくだらない会話もあれば、さりげない深い言葉もあり、

そして見事な伏線になっているものもある。

上記は伊坂幸太郎さんの作品であれば、それほど珍しくはないとは思うけれど、

これらの良さが最大限発揮されている『砂漠』は、最高傑作。

できることなら学生時代に是非読んでおきたい小説で、

学生でない方でも懐かしい気持ちで読めるだろう一冊。

 

 

ネタバレありの感想

物語は春夏秋冬の四つのパートに分かれていて、

初見では気づきにくいけれど、それぞれ一年生の春、二年生の夏というように、

なっているわけだけれど、これが鳥井の隣の部屋の住人などによって、

時間経過が分かるようになっていて、

二回目以降読むとかなり巧い構成になっているのが分かる。

最後の冬でハッキリとネタ晴らしをするわけだけれど、

これは最後の最後の南の超能力に関わることでもあるので、

(物語冒頭の車をぶっ飛ばすのは四年に一度という伏線)

おそらく明示したのかなと思う。

 

北村や東堂などに影響を与えまくっている西嶋が

「俺は恵まれないことには慣れてますけどね、大学に入って、

友達に恵まれましたよ」って言うのも良いし、

ラストで莞爾に「本当はおまえたちみたいなのと、

仲間でいたかったんだよな」と語らせるのも良くって、

北村たちとは距離がある人物に語らせることによって、

読者の感想を代弁させているようで、これも非常に素晴らしかった。

 

いわゆる名言というか印象的な台詞が多くあるのも本書の特徴で、

西嶋の「その気になればね、砂漠に雪を降らすことだって、余裕でできるんですよ」や

「今、目の前で泣いてる人を救えない人間がね、明日、

世界を救えるわけがないんですよ」などは、

最初に読んだ時から覚えているので、かなり印象に残っている。

 

西嶋が「北村は頭がいい」、「でも、それだけですよ」と言うけど、

齢を重ねて読むと、こういう何気ない台詞がより響く。

 

あとがきにもあるけれど、伊坂さんが若い頃の作品だからこそ、

モラトリアムの贅沢さと滑稽さを書けていると思うので、

こういう作風の本は貴重な一冊になっていると思うで、

そういう意味でもやはり私の中では最高傑作。

 

小ネタ

西嶋が高校時代に万引きで捕まった時の家庭裁判所の変な調査官は、

おそらく『チルドレン』『サブマリン』に登場する陣内。