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【東野圭吾】『雪煙チェイス』についての解説と感想

本記事では東野圭吾さんの小説『雪煙チェイス』を紹介します。
スキー場シリーズ(白銀ジャックシリーズ)の三作目である。

雪煙チェイス

雪煙チェイス

著者:東野圭吾

出版社:実業之日本社

ページ数:416ページ

読了日:2024年1月31日

 

東野圭吾さんの『雪煙チェイス』。

スキー場シリーズ(白銀ジャックシリーズ)の第三弾である。

 

あらすじ

東京都三鷹市N町の一軒家で福丸陣吉という老人が殺される事件が発生した。

大学生の脇坂竜美は、以前に福丸家の犬の散歩のアルバイトをしていたこともあり、

強盗殺人の容疑をかけられてしまう。

このことを知った竜美は、事件当日に遠く離れた新月高原スキー場で出会った

正体不明の美人スノーボーダーにアリバイ証明をしてもらおうとする。

美人スノーボーダーが言った「ホームグラウンドは里沢温泉スキー場」を手がかりに、

大学の友人・波川省吾とともに里沢温泉スキー場に向かう。

一方で福丸老人殺しの捜査を担当することになった所轄の小杉は、

係長の南原から本庁より先に脇坂を逮捕するように指示され、

部下の白井とともに里沢温泉スキー場に向かい、

刑事ということを隠して脇坂を捜すことになる。

その頃、里沢温泉スキー場では、

スキー場を会場にした大々的なゲレンデ・ウェディングが予定されていた。

 

登場人物

・脇坂竜実:開明大学経済学部四年生。

・波川省吾:開明大学法学部四年生。

 

・小杉敦彦:所轄の刑事。

・白井:所轄の刑事。小杉敦彦の後輩。

・南原:所轄の刑事で係長。小杉敦彦の上司。

・大和田:所轄の刑事課長。渾名は下駄。警部。

・花菱:警視庁捜査一課七係の係長。大和田とは警察学校の同期。警部。

 

・根津昇平:里山温泉スキー場のパトロール隊長。

・瀬利千晶:スノーボードクロスの元選手。

・長岡慎太:里山温泉スキー場のパトロール隊員。

・成宮莉央:実家の旅館『板山屋』を手伝いながら、地元のタウン誌を作っている。

      以前は東京の広告代理店勤務。瀬利千晶の親友。

・成宮葉月:成宮莉央の姉。長岡慎太の婚約者。

 

・中条:警視庁捜査一課の刑事。

・松下広樹:開明大学工学部四年生。竜実のアパートの隣の部屋に住んでいる。

・駒井保:開明大学経済学部四年生。

     竜実とは三年生の時にグループ研究で一緒だった。

・藤原:開明大学三年生。『マウンテン・モンキーズ』のリーダー。

・川端由希子:旅館『きなし』と居酒屋『お食事処 きなし』の女将。

・高野誠也:スキー・スノーボード・スクールのガイド。

・高野裕紀:高野誠也の弟。

・川端健太:高野裕紀の小学校からの幼なじみ。

 

・福丸陣吉:事件の被害者。八十歳。

・福丸秀夫:福丸陣吉の息子。

・福丸加世子:福丸秀夫の妻。

・岡倉貞夫:福丸陣吉の友人で碁の好敵手。

 

ネタバレなしの感想

シリーズ三作目で今作は、強盗殺人事件の嫌疑をかけられた大学生の脇坂竜実が、

アリバイを証明してくれる美人スノーボーダーを探しに里山温泉スキー場を訪れる。

それを追うのは「本庁より先に捕らえろ」と命じられた所轄の刑事・小杉敦彦。

これにお馴染みの根津昇平と瀬利千晶が絡んでくるという展開。

また舞台が前作の『疾風ロンド』と同じということもあって、

前作の登場人物も数人再び登場している。

 

タイトル通りチェイス(追跡)ではあるんだけど、前作同様緊迫感はほとんどない。

アリバイを証明してくれる女性を捜す竜実達は、

一応理由はそれなりにしっかりしているが、

強盗殺人事件の嫌疑がかかっている竜実を追う小杉達は、

上司の命令で警視庁より先に捕らえろと命じられただけなので、

あまりやる気が感じられないし、

強盗殺人事件は場合によっては死刑もあることを考えたら、

リアリティがほとんど感じられなかった。

ただ、ストーリー的には一応綺麗にまとまる形にはなっているので、

シリーズ前二作を読んでる方ならある程度は楽しめるかもしれない。

 

 

ネタバレありの感想

裏表紙にどんでん返し連続の痛快ノンストップ・サスペンスとあるように、

最後の方は一応はどんでん返しはある。

ただ、美人スノーボーダーが瀬利千晶だろうと、成宮姉妹のどちらであろうと、

直接的には物語に影響はないので、面白さの評価には直結しにくい。

成宮葉月が美人スノーボーダーの正体であることよりも妊娠していたことにより、

代わりに千晶と根津昇平がゲレンデ・ウェディングを行うことによって、

千晶と根津の関係が明確に変わり無事結婚するというラストにはなっている。

 

物語的には焦点がどこにあるのかがかなり曖昧になっているし、

読んでいても特に盛り上がりどころが分からなく終わってしまった。

良かったのは前作『疾風ロンド』に登場した

高野兄弟や川端健太が登場してることと根津と千晶の関係が明確になったぐらいかな。

あとは一応小杉敦彦も係長の南原に反旗を翻して、真犯人を逮捕することかな。

もっとも福丸老人殺しの方の犯人捜しは物語の本筋とはいえないこともあって、

特にヒントととか伏線にはなっているものはない。

なので淡々と進んで一応は綺麗に終わってるとしか評価しようがない

一冊になっている。

 

【阿津川辰海】『午後のチャイムが鳴るまでは』についての解説と感想

本記事では阿津川辰海さんの小説『午後のチャイムが鳴るまでは』を紹介します。

午後のチャイムが鳴るまでは

午後のチャイムが鳴るまでは

著者:阿津川辰海

出版社:実業之日本社

ページ数:384ページ

読了日:2024年1月28日

 

阿津川辰海さんの『午後のチャイムが鳴るまでは』。

九十九ヶ丘高校を舞台にした五篇収録の連作短編集になっている。

 

・第一話 RUN! ラーメン RUN!

あらすじ

九十九ヶ丘高校二年生のユーキとアキラは、

チェーンのラーメン店「麺喰道楽」の明日の九月九日までのサービス券を発掘した。

二人は放課後や夜に用事があるため、

校則で禁止されている昼休みに体育館裏のフェンスから抜け出して、

完全犯罪を成し遂げようとするが。

 

登場人物

・結城:2-B。囲碁・将棋部。通称ユーキ。

・日下部顕:2-C。囲碁・将棋部。通称アキラ。

・生徒会長:2-A。文武両道、眉目秀麗のスーパーマン

 

ネタバレありの感想

ユーキとアキラが昼休みにラーメンを食べに外に行くという完全犯罪を目論むも、

生徒会長に見抜かれてしまうというストーリー。

最初読んでる時はどこらへんがミステリーなのか?と思ったけれど、

倒叙形式というのか犯人側の視点で描かれたものを

探偵役の生徒会長が見破るというもの。

高校生らしい馬鹿馬鹿しい話である程度推理の根拠も予想はしやすいかな、

金がないというのが推理の根拠ってのは私は分からなかったけれど。

会長がユーキのことを下の名前で呼ぶ理由は答えずに終わるというラスト。

 

・第二話 いつになったら入稿完了?

あらすじ

文芸部が文化祭に部誌「九十九文学」の特別号を刊行するため、

徹夜合宿を行うことになった。

合宿の徹夜明け、締め切りが迫る時間になってもイラストレーター担当のペンネーム

「アマリリス」、本名司麗美が来ないことから、

昼休みに「ジェイソン」本名楢沢芽以と「川原さとし」本名川原聡が、

マリリス先輩の家を訪ねることになった。

二人が体育館裏のフェンス穴から潜り抜けようと体育館裏の通路を訪れると、

ジェイソンがアマリリス先輩を見かけるが、

その人影は突然、L字型の角を折れて、足早に歩いて行ってしまった。

ジェイソンが曲がり角に辿り着き、向こう側を見た時にはその姿は既に無かった。

 

登場人物

・楢沢芽以:2-B。文芸部。ペンネームは「ジェイソン」。

・川原聡:二年生。文芸部兼占い研究会。ペンネームは「川原さとし」。

・鈴木一郎:三年生。文芸部。編集長。ペンネームは「二階堂七生子」。

・人見澪:一年生。文芸部。ペンネームは「三毛猫」で「ミケ」と呼ばれている。

・司麗美:三年生。文芸部。美術部は既に引退している。

     イラストレーター担当。ペンネームは「アマリリス」。

・司大樹:一年生。司麗美の弟。美術部。

・青龍亜嵐:二年生。文芸部部長。ペンネームは「青龍亜嵐」。

・北村愛梨:2-B。新聞部。

 

ネタバレありの感想

消失もので、体育館裏の通路から消えたアマリリス先輩の正体探し。

麗美の弟の大樹と思わせておいての、真相は麗美が男装をしていたというオチ。

真相自体は100ページでベリーショートの髪とあるのと、

112ページで司弟も美術部ということで、何となくは察しがついた。

物語としては若さとか熱さがあって好きなんだけれど、ミステリーとしては普通かな。

文芸部部長の青龍亜嵐だけは、なぜか本名が明かされないのは気になったけれど。

 

・第三話 賭博師は恋に舞う

あらすじ

2-Aで男子の間で行われている消しゴムポーカー、

その第二回消しゴムポーカー大会が九月の第二週の木曜日に開催されることになった。

ある生徒がクラスのマドンナ的存在茉莉に告白すると言いだしたことから、

大会の決勝戦で優勝した者が、茉莉に告白する『権利』を得ることになった。

芝は青木と組んでイカサマを企むが。

 

登場人物

・芝:2-A。女子に振られること十六連敗中。

・江田:2-A。

・マサ:2-A。賭場の実質的支配者。通称「元締めのマサ」。

・青木:2-A。芝の親友。

・羽根田:2-A。愛称は「タカ」。実家は中華料理屋「羽根田飯店」。

・土間:2-A。

・馬場:2-A。学年二位の秀才。

・今本:2-A。軽音部。

・古森:2-A。

茅ヶ崎:2-A。

・船井:2-A。

・剛田:2-A。

・上坂:2-A。

 

ネタバレありの感想

高校生らしい馬鹿馬鹿しくも熱い話で好きなんだけれど、

謎解きとしては私には難しすぎた。

消しゴムを使ったポーカーゲームなんだけど、

青木が匂いを利用してイカサマをしているのは予想できても、

どういう手段なのかとそれ以外は全く分からなかった。

それでもマサのキャラもあって話としては十分楽しめた。

 

・第四話 占いの館へおいで

あらすじ

斎藤茉莉は昼休みに友達のアリサとエミと三人で教室で昼食をとっていた。

いつもは和やかだが、今日はちょっと雰囲気が違っていて、

アリサのからかいがエミの気に障ったらしかった。

するとエミが適当な文章から色々推論を広げて、

アリサをビックリさせると言いだした。

なので、茉莉が昨日「占い研究会」の部室の前で聞いた

『星占いでも仕方がない。木曜日ならなおさらだ。』というフレーズを

三人で推論することになったが。

 

登場人物

・斎藤茉莉:2-A。占い研究会。

・アリサ:2-A。茉莉の友達。

・エミ:2-A。茉莉の友達。兄がいる。

・ナオ:2-A。斎藤茉莉の彼氏。ミステリーマニア。

 

ネタバレありの感想

「星占いでも仕方がない。木曜日ならなおさらだ」という言葉から推論していく話で、

最初は面白そうと思ったけれど、結論は全く納得できなかった。

「替え玉受験」が真相というのも納得できないけれど、

ナオがこれを分かったというのも含めてミステリーとしてはいまいちかな、

他愛もない学生時代の会話というは好きではあるんだけれど。

斎藤茉莉は二卵性の双子で兄がいて、兄は今朝キモくて囲碁・将棋部とあるので、

兄が第一話に登場したユーキ(結城)であることは予想できる。

一方で第三話で出てきた茉莉とマサが付き合っているというのは、

芝の思い込みなのかと疑問を残して第四話は終了。

 

・第五話 過去からの挑戦

あらすじ

九十九ヶ丘高校の体育教師で生徒指導担当の森山進は、十七年前の九月九日、

今日と同じ日付に不可解な状況下で天文台から姿を消した浅川千景を思い出していた。

 

登場人物

・森山進:九十九ヶ丘高校の体育教師で生徒指導担当。

     九十九ヶ丘高校を二〇〇五年度卒業。

     浅川千景に誘われて天文部に入部した。

・久保田:九十九ヶ丘高校の国語教師で現代文を教えている。

・三森:九十九ヶ丘高校の事務職員。

・浅川千景:十七年前屋上の天文台から姿を消した女子高生。天文部。

・宇内ユズル:天文部。森山進と浅川千景の後輩。

 

ネタバレありの感想

第一話からちょこちょこ名前だけ登場していた教師の森山進が

関わった十七年前の消失事件の謎と、

第一話から第四話までの事件の裏側で何が起きていたかが語られている。

 

十七年前の事件は一時間空けて二度起こっていたというのは分かるけど、

十一時五十分と十二時五十分の一時間の違いは無理がある気がするな。

あと十七年といっても高校生から三十四歳であれば分かるだろうと、

それに苗字は変わっても名前は変わってないわけだし。

事件の裏側で活躍していた第一話の生徒会長、第二話の文芸部部長の青龍亜嵐、

第三話の2-Aのマサ、第四話の斎藤茉莉の彼氏のナオは同一人物で、

第五話で明らかになる菅原正直である。

さらには第一話から第五話までは全部同じ日の

九月九日の事件であったことが明らかになる。

 

総評

高校を舞台にした青春日常系ミステリー。

なので人が死んだりもしないし、シリアスな感じは全くはない。

どころか基本的には良い意味で馬鹿馬鹿しい話が多く、

そこにミステリーを絡めている感じになっている。

ミステリーそのものとしては特筆するものがあるとは思わないけれど、

ライトな感じに仕上がっているので

若い読者でミステリー初心者向けとしてに最適かもしれない。

五篇収録されているし、話そのものは青春らしく馬鹿馬鹿しい話が多いので、

気軽に読んで楽しめる一冊になっている。

 

 

【東野圭吾】『疾風ロンド』についての解説と感想

本記事では東野圭吾さんの小説『疾風ロンド』を紹介します。
スキー場シリーズ(白銀ジャックシリーズ)の二作目である。

疾風ロンド

疾風ロンド

著者:東野圭吾

出版社:実業之日本社

ページ数:400ページ

読了日:2024年1月25日

 

東野圭吾さんの『疾風ロンド』。

スキー場シリーズ(白銀ジャックシリーズ)の第二弾である。

阿部寛さん主演で2016年に映画化されている。

 

あらすじ

泰鵬大学医科学研究所の研究員の葛原克也は

遺伝子操作によってワクチンが効かなくなった炭疽菌・『K-55』を作り出した。

しかし危険な生物兵器を独断で開発したのがばれて大学を解雇されてしまう。

医科学研究所の対応に不満を持った葛原は恨みを晴らすべく、

『K-55』を大学から盗み出す。

そして、『K-55』を雪山に埋め、

スキー場らしき場所で撮られたテディベアの写真を医科学研究所所長東郷雅臣に

送りつけ、「この発信器を取り付けたテディベアの下に『K-55』を埋めてある、

このテディベアを見つけることができる方向探知受信機が欲しければ、

三億円を用意しろ。」と脅迫してきた。

東郷と主任研究員の栗林和幸がどう対応するか話し合ってる時に、

警察から電話があり、葛原が事故死したことを伝えられる。

栗林たちは警察署に出向き方向探知受信機を手に入れて、

テディベアを映した写真をもとに『K-55』を探すことになる。

栗林の息子・秀人の活躍もあり里沢温泉スキー場であることを突き止め、

栗林親子は里沢温泉スキー場に向かうことになった。

 

登場人物

・根津昇平:里沢温泉スキー場のパトロール隊員。

・瀬利千晶:スノーボードクロスを得意としているスノーボード選手。

 

・栗林和幸:泰鵬大学医科学研究所の主任研究員。

・栗林秀人:栗林和幸の息子。中学二年生。

・栗林道代:栗林和幸の妻。

・東郷雅臣:泰鵬大学医科学研究所の所長。泰鵬大学生物学部長。

・佐藤:栗林秀人の小学校時代からの友人。中学二年生。

・鈴木:栗林秀人の小学校時代からの友人。中学二年生。

・田中:神田にあるショップのスノーボードフロアの責任者。

・山野:神田にあるショップの店長。

 

・葛原克也:泰鵬大学医科学研究所の元研究員。

・折口真奈美:泰鵬大学医科学研究所の補助研究員。

・折口栄治:折口真奈美の弟。ビジネスで失敗したため、多額の借金を抱えている。

・山崎育美:板山中学二年生。

・川端健太:板山中学二年生。

・高野裕紀:板山中学二年生。川端健太の幼馴染み。

・吉田桃華:板山中学二年生。

・高野誠也:高野裕紀の兄。大学生。『カッコウ』を手伝っている。

・高野望美:故人。高野裕紀の妹。二か月前に亡くなっている。

・高野の父親:『カッコウ』の店長。

・高野の母親:高野裕紀の母親。

・牧田:パトロール班長

・ワタナベカズシゲ:栗林たちと同じホテルに妻と娘のミハルと泊っている男性。

          

ネタバレなしの感想

シリーズ二作目で今作は強力な生物兵器が雪山に埋められていて、

埋められた場所を知りたければ三億円を用意しろと要求されるも、

脅迫してきた犯人が事故死したため、

研究所の研究員の栗林和幸が息子の秀人の協力のもと

方向探知受信機で探そうとするのが物語の導入になっている。

 

私が読んだ文庫本の裏表紙にはミステリーとあるけれど、

ミステリーというよりはサスペンスで、

しかもかなり軽めのサスペンスという感じになっている。

生物兵器を盗まれた大学の東郷雅臣と和幸との会話はコミカルになっていて、

緊迫感を一切感じさせないものになっている。

東郷はあまりにも無責任な人物で、和幸もパッとしない人物になっている。

このメインストーリーに前作に登場した根津昇平と瀬利千晶が出てきたり、

さらには和幸の息子の秀人と地元の中学生の山崎育美の出会いと、

育美の同級生が物語に絡んでくることになる。

前作もかなり軽めの話だったけれど、今作はそれよりもさらに軽くなっているので、

もし読むとするならそれを念頭に置いて読むことをお薦めする。

 

 

ネタバレありの感想

脅迫者そのものが交通事故であっさりと物語から退場してしまうのは、

珍しいのかもしれないけど、そのあとに展開されるのは、

シリアスさ皆無なドタバタコメディのよう。

東郷と栗林和幸はリアルといえばリアルなんだろうけれど、

生物兵器であることを考えると、

あまりにも軽く無責任で読んでいて感情移入できない。

もっとも東郷と和幸の会話を読めば、笑いどころにしているんだろうとは思うけれど。

これに栗林秀人と山崎育美のゲレンデにおける絡みが青春ぽさも相まって、

とにかく軽くなっている。

折口真奈美と栄治の姉弟を登場させて、

最後の盛り上げどころに使おうとしたんだろうけど、

前作と比べてもどうしてもインパクトは薄くなってしまう。

また、高野望美のエピソードも伏線はあったとはいえ、

どうしてもとってつけたような印象が拭えなかった。

ラストの真奈美のオチからしても、肩の力を抜いて読むべき一冊だろう。

【米澤穂信】『クドリャフカの順番』についての解説と感想

本記事では米澤穂信さんの小説『クドリャフカの順番』を紹介します。

古典部シリーズの三作目である。

クドリャフカの順番

クドリャフカの順番

著者:米澤穂信

出版社:KADOKAWA

ページ数:400ページ

読了日:2024年1月22日

 

米澤穂信さんの『クドリャフカの順番』。

古典部シリーズの第三弾である。

氷菓』のタイトルでアニメ化と漫画化がされている。

 

あらすじ

神山高校で待望の文化祭『カンヤ祭』がはじまった。

だが、折木奉太郎が所属する古典部では、トラブルが発生していて、

出品する文集『氷菓』を大量に作りすぎてしまった。

そのため、文集を売る売り場を増やそうと奔走する千反田える

文化祭を楽しみながらも文集を宣伝しようとする福部里志

発注ミスの責任を感じながらも漫画研究会で文集を売ろうとする伊原摩耶花

そして店番をする奉太郎。

そんな中、学内では奇妙な連続盗難事件が発生していた。

盗まれたものは碁石、タロットカード、水鉄砲、この事件を解決して、

古典部をPRすることによって、部の知名度を上げて、文集の完売を目指そうとするが。

 

登場人物

折木奉太郎:神山高校一年B組。「やらなくてもいいことなら、やらない。

       やらなければいけないことなら手短に」の省エネ主義者。古典部

千反田える:神山高校一年A組。古典部部長。

福部里志:神山高校一年。奉太郎の旧友。手芸部古典部員。総務委員会。

      データベースを自認している。ホームジストに憧れている。

伊原摩耶花:神山高校一年。古典部と漫画研究会と図書委員会。

       奉太郎とは小学生以来の付き合いで、九年間クラスが一緒だった。

 

・谷惟之:神山高校一年。囲碁部。福部里志のクラスメイト。

・十文字かほ:神山高校一年。占い研究会。実家は荒楠神社。

       福部里志のクラスメイト。

・須原:神山高校一年B組。本町の『みらく』の息子。

・高村洋一:神山高校一年B組。奇術部。

・入須冬実:神山高校二年F組。渾名は女帝。

・沢木口美崎:神山高校二年F組。

・田名辺治朗:神山高校二年。総務委員長。

・湯浅尚子:神山高校二年。漫画研究会部長。

・河内亜也子:神山高校二年。漫画研究会。

・羽場智博:神山高校二年F組。探偵小説研究会所属。

・吉野康邦:神山高校二年。放送部部長。

・田山:神山高校二年。奇術部部長。

・陸山宗芳:神山高校二年。神山高校生徒会長。カンヤ祭実行委員長。

・清水紀子:神山高校三年E組。

・遠垣内将司:神山高校三年。壁新聞だったが今は引退している。

安城春菜:『夕べには骸に』の原作者。

      以前は神山高校の生徒だったが、今は転校してしまっている。

 

ネタバレなしの感想

今作は『氷菓』と『愚者のエンドロール』にも話として出てきた

神山高校文化祭・通称カンヤ祭の三日間が描かれている。

前二作は基本的には折木奉太郎視点であったのに対して、

今作は折木奉太郎千反田える福部里志伊原摩耶花

四人の視点で描かれているのも特徴の一つ。

なので、千反田える福部里志伊原摩耶花が、

それぞれどういうキャラクターなのかが、より分かるようになっている。

 

物語は文集を大量発注してしまったために、

文集を売ろうと悪戦苦闘するわけだが、

その中で『十文字事件』という連続盗難事件が発生する。

その事件を解決することによって文集を売ろうと目論む古典部

メンバーというところ。

ミステリーに関しては米澤穂信さんなのでフェアでかなり論理的になっているので、

安心して読めるだろう。

 

以前読んだことはあるので真犯人が誰かは何となく覚えていたんだけれど、

犯人を特定する手がかりや伏線、論理的な帰結は流石の一言。

また、構成的にも本題とは関係ないのかと思っていたものが、

最後に絡んでくるのも見事。

ただ、私としては文化祭というイベントを通しての

古典部のメンバーを見ることができただけで満足かな。

前二作の登場人物もちょいちょい登場するのもあって、

シリーズものの良さが発揮されている。

 

 

ネタバレありの感想

真犯人が総務会長の田名辺治朗で10Pからのしおりがヒントになっているのだけは

何となく覚えていたんだけれど、

『夕べには骸に』の作者が三人関わっていて、

安城春菜以外に陸山宗芳と田名辺治朗というのは全く覚えていなかったのもあって、

素直に驚いた。

あと、伊原摩耶花のパートが途中まではどう物語に関わってくるのか

分からなかったけれど、

『夕べには骸に』が事件の根幹にあるのでしっかりと意味があったことにも

新鮮な驚きがあった。

ただ、伊原摩耶花のパートは読んでいて、そこまで愉快じゃないのはいまいち。

もっとも、最終的には河内亜也子との話は悪くはないけれど。

 

ミステリーとは関係ない部分だと福部里志は能動的存在なのもあって、

読んでいて面白いのと、折木奉太郎は店番ということで受動的なんだけど、

長者プロトコルもあって物語にちょいちょい絡んでくるのは良かった。

 

一作目の『氷菓』のあとがきにあった寿司事件の解決は本書の中に書かれている。

【東野圭吾】『白銀ジャック』についての解説と感想

本記事では東野圭吾さんの小説『白銀ジャック』を紹介します。
スキー場シリーズ(白銀ジャックシリーズ)の一作目である。

白銀ジャック

白銀ジャック

著者:東野圭吾

出版社:実業之日本社

ページ数:416ページ

読了日:2024年1月19日

 

東野圭吾さんの『白銀ジャック』。

スキー場シリーズ(白銀ジャックシリーズ)の第一弾である。

2014年に渡辺謙さん主演でテレビドラマ化されている。

 

あらすじ

年の瀬の新月高原スキー場に、

「積雪量たっぷりのゲレンデの下にタイマー付きの爆発物を仕掛けた。

3000万円を用意すること。」という脅迫状が届いた。

スキー場の索道部マネージャーの倉田玲司は警察に通報することを進言するが、

経営陣は風評被害を恐れ、警察に通報せずに、犯人の要求に応じる判断を下した。

しかし、3000万円を受け取った犯人は、

爆弾を埋めてない一部のエリアを教えただけで、爆弾を埋めた具体的な場所を教えず、

さらに3000万円を要求してきた。

犯人の言いなりになる状況に不満を感じたスキー場のパトロール隊員の根津昇平は、

二回目の金の引き渡しで犯人の手がかりを掴もうとするが、犯人に逃げられてしまい、

3000万円を犯人に奪われてしまう。

そして三回目の犯人の要求はさらにエスカレートすることに。

そんな中、根津はある人物が犯人ではないかと怪しんでいた、

それは一年前にスキー場で妻を事故で亡くした入江義之だった。

 

登場人物

・根津昇平:新月高原スキー場のパトロール隊員。元スノーボードクロスの選手。

・藤崎絵留:新月高原スキー場のパトロール隊員。

      アルペンスキーでオリンピックを目指した経歴を持っている。

・桐林祐介新月高原スキー場のパトロール隊員。今年入った新人。

・上山禄郎:新月高原スキー場のパトロール隊員。

 

・倉田玲司:新月高原スキー場の索道部マネージャー。索道技術管理者。

・津野雅夫:新月高原スキー場の索道部主任。

・辰巳豊:新月高原スキー場のゲレンデ整備主任。

・松宮忠明:新月高原スキー場の索道事業部本部長。スキー場の安全統括管理官。

 

・瀬利千晶:女性スノーボーダー

      新月町の居酒屋で住み込みのアルバイトをしている。

・横内幸太:瀬利千晶の従兄弟。大学二年生。

・横内快人:瀬利千晶の従兄弟。横内幸太の兄。

 

・入江義之:妻の香澄を事故で亡くしている。一年振りにスキー場を訪れた。

・入江達樹:入江義之の息子。小学校五年生。

・入江香澄:故人。入江義之の妻。一年前に新月高原スキー場で亡くなった。

 

・日吉浩三:ロイヤルスイートに宿泊している老人。

・日吉友恵:日吉浩三の妻。

 

・中垣:新月高原ホテル事業本部長兼支配人。

・宮内:新月高原ホテル総務部長。

・佐竹:新月高原ホテル営業部長。

・筧純一郎:新月高原ホテルアンドリゾート株式会社の社長。

      広世観光株式会社取締役。

・小杉友彦:筧純一郎社長の秘書。

 

・増淵康英:北月町の町長。

・増淵英也:増淵康英の息子。北月町役場勤務。

・長井:北月町の副町長。

・岡村:北月町の観光課長。

 

ネタバレなしの感想

メインストーリーは、スキー場のゲレンデに爆発物が仕掛けられていて、

遠隔操作によってタイマーを発動させて、雪崩を起こすことができるので、

お金を要求するという脅迫状がスキー場に届くというもの。

そこに一年前のスキー場で起きた事故が関わってくるというもの。

前半の脅迫のところを読めば緊迫感あるストーリーだと思えるんだけれど、

実際に読んでみるとそうでもなかった。

スキー場としては警察に届けるわけでもないし、

そもそも爆発されたらそこで話は終わってしまうので、

普通に取引が何回か続くという流れになっている。

また爆発物を探すのも雪の下ということで難しいということで早々と断念してしまう。

なので中盤までは結構盛り上がりに欠けて、退屈な感じになっている。

ただ、終盤からの盛り上がりと

複数のストーリーがひとつに収斂していくのは流石の一言。

謎解きとしては評価しにくいけれど、ライトなサスペンスとして読む分には悪くない。

 

 

ネタバレありの感想

とにかく中盤までがあまりにも退屈であるのが最大にして唯一の欠点で、

これを乗り越えられるかどうかという感じ。

事件の真相としては採算が合わないお荷物の北月エリアを切り離すために、

爆薬を使い、雪崩を起こすというものだけど、

筧社長たち経営陣側が最初から怪しさ満点というのもあってそこまで驚きはなかった。

もっとも、地元の警察や消防を引き込んでいるほどの計画の割には、

爆破後のリフト小屋が一部破損しただけで、大きな被害が無かったというのは、

間抜けというかなんというか。

若干不審な桐林祐介とそして何かあるだろうなと思わせる日吉夫妻が

最後の最後に関わってくるのはやっぱりうまい。

増淵英也と桐林祐介が入江香澄の事故の二人組なんだけど、

正直ここまでくると設定を詰め込みすぎかなと思う。

序盤から登場していた瀬利千晶も一応見せ場はあったりと、

最後には綺麗にまとまってる印象。

良くも悪くも軽い気持ちで読んで楽しむ一冊だろう。

【浅倉秋成】『六人の嘘つきな大学生』についての解説と感想

本記事では浅倉秋成さんの小説『六人の嘘つきな大学生』を紹介します。

六人の嘘つきな大学生

六人の嘘つきな大学生

著者:浅倉秋成

出版社:KADOKAWA

ページ数:368ページ

読了日:2024年1月16日

 

浅倉秋成さんの『六人の嘘つきな大学生』。

「ミステリが読みたい!2022年版」国内編8位、

このミステリーがすごい!2022年版」国内編8位、

「2021「週刊文春」ミステリベスト10」国内部門6位。

浜辺美波さん主演で映画化され、十一月に公開される。

 

あらすじ

IT企業のスピラリンクスが満を持して新卒総合職の採用を開始し、

最終選考に残ったのは六人の大学生。

人事部長から六人の就活生に与えられた課題は、

一か月後までにチームを作り上げ、ディスカッションをするというものだった。

内容によっては六人全員の内定もあり得ると言われ、

直後にファミレスで話し合うことになった。

波多野祥吾は、全員で内定を得るために何度も集まり対策を練って、

五人の学生と交流を深めていく。

しかし、本番直前に人事部長から課題の変更が通達され、

それは「六人の中から一人の内定者を決める」ことだった。

仲間だったはずの六人は、一つの席を奪い合うライバルになった。

スピラリンクスの最終選考日、内定を賭けた議論が進む中、不審な封筒が発見される。

封筒の中からは六人それぞれの個人名が書かれた封筒が入っており、

ある封筒を開けると「〇〇は人殺し」という告発文が入っていた。

 

登場人物

・波多野祥吾:立教大学で経済学を専攻している。

・嶌衣織:早稲田大学社会学を学んでいる。

・九賀蒼太:慶応大学の総合政策学部

・袴田亮:明治大学の学生。

・矢代つばさ:お茶の水女子大学で国際文化を学んでいる。

・森久保公彦:一橋大学の学生。

・鴻上達章:スピラリンクス人事部長。

 

・鈴江真希:スピラリンクス勤務。

・波多野芳恵:江戸川区の公務員。

 

ネタバレなしの感想

まず最初に書いておきたいのは、物凄く面白かったということ。

各種ミステリーランキングでも上位に入っていたり、

amazonの評価でも高いのも納得の一冊で読んで損はしないでしょう。

 

ストーリーは就職活動の最終選考に残った大学生六人が

「六人の中で誰が最も内定に相応しいか」を議論するというもの。

就職活動というおそらくほとんどの日本人が経験したか、

するであろうイベントを舞台にしている。

 

読む前は就活を舞台にしたミステリーというのは、

ほんとに面白いのか?と懐疑的であったけれど、

最終選考のグループディスカッションがはじまったところからは

一気に物語にひきこまれて読んでしまった。

このグループディスカッションは密室で二時間半行われて、

内定者を決定するというものだったが、

このディスカッションの現場に、

メンバーそれぞれの後ろ暗い過去が書かれた紙が入った封筒が置かれていたことから

様相が一変していくというもの。

ある種の密室ものともいえるし、デスゲームともいえるかな。

特にグループディスカッションの前に六人が協力して

チームになろうとしてた描写もあり、

六人それぞれの良さや素晴らしさも読者は知っていることもあり、

グループディスカッションの内容はその落差に驚くことになる。

これ以上詳しいことはネタバレになるので書かないけれど、

「就職試験」と「それから」の二部構成になっていて、

作品のクオリティはかなりのものになっている。

もともと評価が高い作品だけあって、かなり楽しめたし、印象に残った一冊になった。

 

 

ネタバレありの感想

まずは最初の六人がチームとして活動することによって、

六人それぞれの良さであるとか彼らが親密になる過程が描かれていて、

これが一種のフリになっている。

その後のグループディスカッションでそれぞれの過去の罪が明らかになったり、

人間臭い感情が描かれることによって、オチの役割を果たしている。

しかも、就職活動の八年後のインタビュー形式が合間合間に入ってくることにより、

それぞれの人間がどういう人間か分かることによって、

より強烈な印象を与えることに成功している。

このインタビューも最初は波多野祥吾がインタビュアーだと思わせるけれど、

結局は嶌衣織で、波多野祥吾が「犯人」扱いされて、「就職試験」は終わる。

 

「それから」は嶌衣織視点で物語は進行していき、

「犯人」扱いされた波多野祥吾が病死したのがきっかけで、波多野の妹の芳恵から

嶌に連絡があり、封筒事件の真相を探っていく。

「犯人」扱いされた波多野は生前に事件を調べていて、USBに残していた。

封筒事件の犯人は九賀で告発された人たちもそれぞれ事情があったというオチ。

最初の六人の協力から、グループディスカッションがあり、

さらには告発の真相という形で二転三転してるのも非常に

うまくて読ませるものがある。

犯人が愛したものが九賀の口癖のフェアで、

就職活動をテーマにしてるだけあって、しっかりと意味があるものになっている。

唯一明かされていなかった嶌の後ろ暗い過去は、

兄が薬物依存症であったということだけど、この兄が相良ハルキという歌手。

この相良ハルキは序盤から名前が出てきて意味深だとは思っていたけど、

最後にしっかりと伏線が回収されるというオチ。

「犯人」扱いされた波多野はグループディスカッション中に自白したように、

借りたスーファミのソフトを返しそびれていたのも事実。

またただの「いい人」のような波多野が事件の真相を

スピラリンクスに伝えようとしていたという、

人間らしいオチも含めてかなり良かった。

サークルの仲間からつけられた好青年のふりをした腹黒大魔王という

伏線も回収してて完璧すぎるオチ。

 

多数の伏線や叙述要素が巧みに使われていて、驚きを感じながら読むことができる。

また、それでいて最後はストレートに終わることによって

読後感は素晴らしいものになっている。

前評判通りの一冊で、読んで良かった思えた。

【今村昌弘】『でぃすぺる』についての解説と感想

本記事では今村昌弘さんの小説『でぃすぺる』を紹介します。

でぃすぺる

でぃすぺる

著者:今村昌弘

出版社:文藝春秋

ページ数:440ページ

読了日:2024年1月13日

 

今村昌弘さんの『でぃすぺる』。

ジュブナイル×オカルト×本格ミステリ

「ミステリが読みたい!2024年版」19位。

 

あらすじ

オカルト好きの小学六年生の木島悠介(ユースケ)は、

二学期のはじめにクラス内の係決めの際に、掲示係に立候補する。

掲示係になれば、自由に壁新聞を作ることができ、都市伝説や心霊現象を中心にした、

オカルト記事のコーナーを作ることができると考えたためだった。

ところが、一緒に立候補してきたのは

一学期にはクラス委員長を務めた波多野沙月(サツキ)、

さらには法事で学校を休んでいて係決めに参加できなかった転校生の畑美奈(ミナ)。

真面目なサツキが一緒ではオカルト記事を書くことができないのではないかと

ユースケは不安に思っていると、

サツキの方から『奥郷町の七不思議』について調べないかと提案される。

サツキは去年の秋に殺された従姉の波多野真理子(マリ姉)が

ノートパソコンに残した『奥郷町の七不思議』の六つの怪談と

『七つ目の不思議を知ったら死ぬ』というテキストを見たためだった。

マリ姉は怪談を集める趣味もなく、わざわざ『七不思議』を残したのには

意味があるはずと考えて、サツキは掲示係になり、『七不思議』の謎を解こうとする。

ユースケたち掲示係三人が挑む、小学校生活最後の謎。

 

登場人物

木島悠介:小堂間小学校六年生。ユースケ。掲示係。オカルトが好き。

・波多野沙月:小堂間小学校六年生。掲示係。一学期の委員長。父親は弁護士。

・畑美奈:小堂間小学校六年生。掲示係。四月に来たばかりの転校生。

 

・高辻:小堂間小学校六年生。アイドルが好き。

・樋上:小堂間小学校六年生。

    クイズが好きで、大阪であった大会にも出たことがある。

・蓮:小堂間小学校六年生。運動が得意。

・城戸ありさ:小堂間小学校六年生。城戸写真店の一人娘。

・野呂:小堂間小学校六年生。城戸ありさといつも一緒にいる。

 

・波多野真理子:故人。サツキの従姉。マリ姉

        地元の銀行に勤めていた。仁恵大学の卒業生。

        去年の十一月に運動公園のグラウンドで殺されていた。

・豊木:魔女。「魔女の家」に住んでいる車椅子のお婆さん。

・ユースケの父ちゃん:ユースケの父親。酒屋の経営者。

・ユースケの母ちゃん:ユースケの母親。名前は「秋」

           数年だけ町を出て会社勤めをしていた。

・ヒロ:ヒロ兄ちゃん。ユースケの歳が離れた幼なじみ。奥郷署の交通課の警察官。

・柴田:柴田のじいちゃん。ユースケの親の酒屋の常連客。

・作間寛人:五年ほど前からの波多野真理子の顔見知り。

・時任:故人。仁恵大学の教授。去年の十一月に桜塚トンネルで亡くなっていた。

・坂東景太郎:医者。坂東病院の院長の息子。

・小暮:大学院生。マリ姉と一緒に時任教授のゼミにいた。

・金森:故人。亡くなる前は木工所で働いていた。

 

・はるやん:動画配信者ゴースト・ブラザーズ。本名は大谷春彦。

・あきと:動画配信者ゴースト・ブラザーズ。本名は大谷彰人。

 

・尾埜上樹一:町長。

・水無瀬:役場の職員。

・占部:奥郷町図書館の職員。

・小日向志津夫:故人。建築家。

        小堂間小学校の校舎や奥郷町の文化ホールなどを設計した。

・大平丹治:故人。『鉱山とともに 五十年』の著者。柴田の知り合い。

 

ネタバレなしの感想

ジュブナイル×オカルト×本格ミステリという謳い文句通り

多くの要素が詰め込まれいて、

これは今村昌弘さんの『屍人荘シリーズ』でもオカルト要素と

本格ミステリ要素があったことを考えると、今村さんらしくなっているのかな。

主人公の小学六年生のユースケ達が住む奥郷町の七不思議と、

七不思議を残して殺されたマリ姉の事件の謎を追うことになる。

マリ姉の事件の謎も大きく関わってくるんだけど、

基本的には七不思議というオカルトを調べることから、

事件の真相を探る形になっているので、

本格ミステリ要素はそこまで期待しない方がいいかもしれない。

中学受験が控えているサツキ、離婚した父親を心配させまいとするミナなど、

ジュブナイル要素も思ったよりもあって楽しめるようになっている。

 

私はオカルト好きということもあるし、ジュブナイルも好きなので結構楽しめた。

 

 

ネタバレありの感想

最初に『奥郷町の七不思議』とマリ姉の殺人事件という大きな謎を提示しているので、

私は物語にひきこまれたし、それからそれぞれの怪談の謎を描き、

解き明かしていくというのは非常にうまく感じた。

長編だけど、怪談の謎以外にも日常の謎もあったりするので、

中だるみもほとんどしなかったのも良かった。

さらには魔女だったり、柴田のじいちゃんや城戸ありさなど

脇役キャラも良い味を出しているし、

奥郷町という田舎町も物語の舞台にはピッタリ。

ノックスの十戒が出てきたり、『三笹峠の首あり地蔵』の叙述トリックなど

ミステリーマニアも楽しめるようになっているのは流石。

 

ただ、ラストというか事件の真相は結構ガッカリしてしまった。

マリ姉の事件の真相は自殺で、

その理由は翌日の祭りを中止させるためって、

それなら祭り会場を壊して翌日の祭りを実行不可能にすれば良かったんじゃないかと。

年齢的にも若いマリ姉が自殺するというのは、いまいち納得できなかった。

 

あとは配信者のゴープラが死んだことに関してはユースケたちは何かしら感じて、

それを乗り越えてでも、謎を解き明かすみたいな描写は必要だったんじゃないかな。

 

終盤まではかなり面白かったし、オカルト要素自体は受け入れることはできたけど、

最後だけはちょっと尻すぼみかな。

サツキが両親を説得して中学受験を辞めたり、ミナが小説を書きはじめたりと

物語の終わり方としては良かった。

また、邪心の半身の謎などもあることから、

もしかして続編もあるかなという終わり方になっている。