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【東野圭吾】『悪意』についての解説と感想

本記事では東野圭吾さんの小説『悪意』を紹介します。

加賀恭一郎シリーズの第四作目にあたる作品です。

 

悪意

悪意

著者:東野圭吾

出版社:講談社

ページ数:376ページ

読了日:2023年2月8日

 

加賀恭一郎シリーズの第四作目である『悪意』。

加賀恭一郎シリーズの第三作目の『どちらかが彼女を殺した』も

犯人が作中で明示されないという実験的な作品だったが、

四作目の『悪意』もかなりの実験的な作品といえるかもしれない。

本作の特徴は二人の人物による手記と記録とが交互に著され、

ある事件の真相にせまっていく仕掛けになっている。

なお、間寛平さんでNHKでテレビドラマ化もされています。

薄っすら見た記憶にはあるんだけれど、正確には覚えてないですね。

wikipediaを見たら主人公の名前が加賀恭一郎から

西原甲子男に変更してるみたいですね。

 

あらすじ

人気作家である日高邦彦が仕事場である自宅で殺された。

第一発見者は妻の理恵と日高邦彦の幼なじみの野々口修。

捜査にあたる刑事の加賀恭一郎は

野々口が書いている「事件に関する手記」に興味を持つ。

加賀は野々口が事件当日に発した一言から野々口を犯人ではないかと疑っていた。

加賀は捜査や聞き込みをして、野々口の手記に疑問を抱く。

やがて犯人が逮捕されるが、逮捕された犯人が決して語らない動機とは?

 

登場人物

加賀恭一郎:刑事。二年で教職を捨て警察官に。中学時代は社会科の教師。

      十年前に教師を辞めている。

野々口修:児童文学を書く小説家。

     三月までは中学校の教師。加賀恭一郎の教師時代の同僚でもある。

     日高邦彦の幼なじみ。

日高邦彦:事件の被害者。ベストセラー作家。野々口修の幼なじみ。

日高理恵:日高邦彦の妻。一か月前に入籍したばかり。

日高初美:故人。交通事故で五年前に死亡。日高邦彦の元妻。旧姓篠田

牧村:警察官。加賀より若い。

迫田警部:警察官。五十歳前後。加賀の上司。

藤尾正哉:故人。日高の著書『禁猟地』のモデルになった人物。

藤尾美弥子:正哉の妹。

     『禁猟地』の回収と全面改稿を求めて日高邦彦に抗議をしている。

 

感想

感想

私が読書をすることになったのが東野圭吾さんの『白夜行』。

それから東野圭吾さんの本を読み漁ったんですけど、

特に印象に残っていたのがこの『悪意』です。

前作の『どちらかが彼女を殺した』が私の思ってたミステリーなんです。

要は『金田一少年の事件簿』や『名探偵コナン』みたいな、

犯人当てやトリック当てですよね。

それとは違う方法論で描かれたのが『悪意』ですね。

 

おそらく二十年ぶりぐらいに読んだけれど、やっぱり『悪意』は非常に面白かった。

最初の「野々口修による手記」は導入部だけあって、

そこまで物語にひきこまれるというほどではないけれど、

次の「加賀恭一郎の記録」からはひきこまれてしまって、一気に読み進めてしまった。

基本的に昔読んだ作品でも覚えてないことが多いんだけれど、

『悪意』に関しては昔読んだときに印象に強く残っていたので、

記憶にあった通りなんだけれど、それでも非常に面白かった。

 

加賀恭一郎の教師時代の話が明確に語られる作品でもある。

 

 

ネタバレありの感想

ネタバレなしの感想に書いたように「加賀恭一郎の記録」から面白いんだけど、

さらに面白いのは「過去の章その一 加賀恭一郎の記録」かな。

事件の真相が明らかになったと思わせて、そっからさらに展開していくと。

しかも、加賀恭一郎が野々口修のペン胼胝から疑念を持つっていうの

根拠としてはしっかりしてるからね。

ペン胼胝がどの程度の期間あるものなのかはよくわからないけれど。

 

加賀の記録と野々口の手記で構成されているわけだけど、

「過去の章そのニ 過去を知る者たちの話」は宮部みゆきさんの『記録』を思い出す。

同じ事柄を複数の視点から描き出す。

それもドキュメンタリー的とかノンフィクション的な感じっていうね。

この手の手法大好きなんですよね私。

 

野々口たちの中学生時代の話は、若干『白夜行』を思い出す。

藤尾のやったこととか、あの雰囲気がね。

 

あと驚愕すべきは野々口修の執念だよね。

ペン胼胝もそうだし、アレだけ念入りに動機を作る。

やっぱり『悪意』は非常に面白い一作である。

 

ラストの「人間を描く」ってのは加賀恭一郎じゃないけど、

まんまとやられたよね。

「猫殺し」のエピソードで日高邦彦のイメージが構築されたので、

最後の最後まで日高邦彦のイメージはそっちにいくわけだから。

 

この時期の東野圭吾さんは実験的とも言えるし、凝った手法をしてるのがわかるな。

東野圭吾さんが昔語ってのだとあまり売れなかったから

試行錯誤してたのかもしれないけど。

 

加賀恭一郎の教師時代の話に関しては、

これだけ大きな挫折にしないと加賀が教師を辞めないだろうとは思う。

けれど、加賀にしては若干不用心だよね。

 

印象に残った一節を引用しておく。

『彼が恐ろしいと思ったのは、暴力そのものではなく、

自分を嫌う者たちが発する負のエネルギーだった。

彼は今まで、世の中にこれほどの悪意が存在するとは、想像もしていなかったのだ』

『禁猟地』の一説。