本記事では東野圭吾さんの小説『嘘をもうひとつだけ』を紹介します。
加賀恭一郎シリーズの第六作目にあたる作品です。
加賀恭一郎シリーズ初の短編集になっています。
嘘をもうひとつだけ
著者:東野圭吾
出版社:講談社
ページ数:272ページ
読了日:2023年2月11日
加賀恭一郎シリーズの第六作目。
加賀恭一郎シリーズとしては初めての短編集になっている。
表題作の「嘘をもうひとつだけ」も含めてすべて「嘘」に関連した話になっている。
なお、物語は加賀恭一郎以外の人物の視点で語られている。
「冷たい灼熱」と「狂った計算」は
テレビ東京で放送された『多摩南署たたき上げ刑事・近松丙吉』シリーズとして
テレビドラマ化されている。
・嘘をもうひとつだけ
あらすじ
弓削バレエ団の事務員である早川弘子が自宅マンションの敷地内にある
植込みの中で倒れているのを管理人が発見した。
早川弘子は頭から大量の血を流して死んでいた。
警察の捜査によって七階にある自室のバルコニーから転落したことが判明した。
早川弘子は一週間前にマンションに引っ越したばかりだった。
練馬警察署の刑事・加賀は同じマンションに住む、
早川と同じ劇団で働く寺西美千代に目をつけるが。
登場人物
・寺西美千代:弓削バレエ団の事務局長。早川弘子と同じマンションに住んでいる。
・早川弘子:自宅マンションの敷地内で転落死体で発見される。
弓削バレエ団の事務員。約一年前まではダンサーだった。
・寺西智也:故人。昨年癌で死亡。寺西美千代の夫。振付師。
・新川裕二:故人。五年前に事故で死亡。作曲家。
・松井要太郎:故人。二十年前に病気で死亡。弓削バレエ団のバレエマスター。
・加賀恭一郎:練馬警察署の刑事。
感想
加賀恭一郎とバレエといえば『眠りの森』を思い起こさせる。
実際作中の加賀はバレエに少々関心があると発言している。
「嘘をもうひとつだけ」というタイトル通り、この作品は嘘がテーマになっている。
寺西美千代もだけど、加賀の方も嘘をつくという話。
・冷たい灼熱
あらすじ
自宅に帰宅した田沼洋次はいつもと違って妻の美枝子も、
息子の裕太も出てこないことに不審がる。
そして、洗面所で倒れている美枝子を見つける。
部屋が荒らされていて、預金通帳もないこと、さらに息子の裕太は行方不明のまま、
警察の捜査は開始された。
警察は美枝子が正面から首を絞められていたことから、顔見知りの犯行を疑うが。
登場人物
・田沼洋次:工作機械メーカーに勤めている。
・田沼美枝子:洋次の妻。前から首を絞められて死んでいるのを洋次に発見される。
・田沼裕太:洋次と美枝子の一人息子。一歳。
・加賀恭一郎:年齢は三十代前半。
感想
これは途中で読んだことあるって思い出した作品。
たぶんドラマは見てないと思うので、本で読んだんだと思う。
そして記憶に残っていただけあって、非常に面白かった。
熱射病で亡くなった子どもの事故を隠蔽するために、
狂言強盗をでっち上げる美枝子、そしてそれに気づいて美枝子を手にかける洋次。
夏の暑さも感じさせる洋次側のどうしようもない、救いもないような感じ。
一方ミステリー小説の短編としてもかなりの完成度。
洋次は裕太の服を覚えているのにアルバムを探すのに苦労してる点から怪しむ加賀。
車のエアコンの話だったり、美枝子の赤いTシャツなど。
熱硬化性樹脂の話などは東野さんらしいかな。
とにかく面白かった一作。
・第二の希望
あらすじ
楠木真知子は仕事から帰宅したら自宅が荒らされていて、
さらに男性の死体があるのを発見する。
駆け付けた警察が調べたところ、死んでいた男性は毛利周介。
毛利周介は楠木真知子が交際していた男性だった。
真智子には十一歳になる一人娘の理砂と二人暮らしだった。
真智子は器械体操のオリンピック選手になることが夢の第一希望だった。
娘の理砂の才能を見抜き、母娘二人でオリンピックを目指していたが。
登場人物
・楠木真知子:会計事務所で事務をしている。ダンススクールで週三回教えている。
・楠木理砂:真智子の娘。十一歳。スポーツクラブで器械体操をやっている。
・毛利周介:デパートの外商部に勤めている。真智子の交際相手。
・加賀恭一郎:年齢は三十五歳前後。
感想
好き嫌いは、かなり別れそうな作品。
ある意味一番ぶっ飛んでる作品かもしれない。
さすがにこの事件の動機はないだろってのが、どうしても思ってしまう。
なので、読んだのに記憶にないのかなと。
あと、絞殺方法にしても妙に手がこんでるのがね。
私にはあんまり合わなかったかな。
・狂った計算
あらすじ
数日前からフジヤ生花店に毎日やってきて、
必ず菊とマーガレットを買っていく客の坂上奈央子。
坂上奈央子は先週、交通事故で夫を亡くしたばかりだった。
一方、加賀は一週間ほど前に行方不明になった建築士の中瀬幸伸の行方を追って、
中瀬幸伸と坂上奈央子が浮気をしているという情報から坂上奈央子に接触するが。
登場人物
・坂上奈央子:主婦。同じ製薬会社に勤務中に隆昌と結婚した。
・坂上隆昌:奈央子の夫。製薬会社勤務。交通事故で死亡。
・中瀬幸伸:建築士。既婚者。
・加賀恭一郎:年齢は三十過ぎ。
感想
「冷たい灼熱」同様、途中で読んだことあるなと分かった作品。
でもオチまでは覚えてなかったので、オチに驚いた。
一応加賀は隆昌は奈央子を愛してると言ったけれど、
私にはどうしてもそうは思えないわけですよ。
完全に奈央子に感情移入してしまったわけです。
そうすると「冷たい灼熱」同様、やっぱり救いがない話なんですよね。
唯一、救いがあるのはオチでしょうかね。
ベッドの中の棺で眠っていたのが中瀬幸伸であったのだけは良かったかなと。
話そのものは非常に良いんですけどね。
阿部光平の水鉄砲の活用といい、物語はものすごくいい出来。
・友の助言
あらすじ
萩原保は東名高速道路で急激な眠気に襲われて、交通事故を起こしてしまう。
荻原保の大学時代の同級生の加賀恭一郎は、
交通事故当日荻原から話があるからと会う予定だった。
加賀は荻原にお見舞いに訪れた病室で話をし始める。
登場人物
・荻原保:会社の社長。加賀の大学時代からの知り合い。
・荻原峰子:保の妻。アートフラワー教室に通っている。
・荻原大地:保と峰子の息子。幼稚園に通っている。
・葛原留美子:アートフラワー教室の講師。
・加賀恭一郎:荻原とは年に何度か会う仲。
感想
どちらかというと冷静沈着な加賀の意外な一面も見ることができる作品。
峰子と葛原留美子の関係は今読んでもやっぱり予想できなかった。
たぶん、昔読んだらなおさらだろうけどね。
大地の絵もしっかり伏線になっているところなんかは流石の一言。
最後のオチも嘘であることを考えると、この本の最後を飾るにふさわしい。
総評
読む前は短編集ということもあって結構舐めてたけど、意外に楽しめました。
個人的なおすすめ作品は「冷たい灼熱」と「狂った計算」ですかな。
この作品は語り手に完全に感情移入して読むことができた。
謎とか伏線なんかも完成度が高くて良かった。
「友の助言」も加賀のキャラクターもだし、本の最後に相応しかったと思います。