本記事では伊坂幸太郎さんの小説『残り全部バケーション』を紹介します。
残り全部バケーション
著者:伊坂幸太郎
出版社:集英社
ページ数:304ページ
読了日:2023年4月20日
伊坂幸太郎さんの『残り全部バケーション』。
当たり屋、強請などあくどい仕事をする
岡田と溝口の裏稼業コンビの活躍を描いた連作短編集。
・第一章 残り全部バケーション
あらすじ
二件の依頼をこなした岡田と溝口。
岡田が溝口に仕事を辞めたいと言い出して、溝口は岡田に条件を出す。
一方、父親の浮気が原因で離婚することになった早坂家。
長年住んだマンションの部屋から引っ越すための準備が終わり、
業者を待つ時間に父親のPHSに知らない番号からメールが届いて。
登場人物
・岡田:悪事の下請け、犯罪の派遣社員だったが辞めて無職に。
二十代。背は百八十弱。
・溝口:岡田を仕事に誘った人物。
・早坂沙希:高校生。十六歳。
・沙希の父親:四十七歳。浮気が原因で離婚することに。
・沙希の母親:四十五歳。
ネタバレありの感想
岡田が裏稼業の仕事を辞めようとする話。
具体的な話というより、とにかく会話が面白い。
というか話そのものはあるのかないのかという感じ。
読んでて思ったのが岡田と溝口のやってることは完全に犯罪行為なわけで
本来なら嫌悪感を抱くんだけれど、抱かせないのは凄いなと。
連作短編集のまずは掴みって感じかな。
・第二章 タキオン作戦
あらすじ
潰れたスーパーに向かう途中、虐待されている少年に出会う岡田と溝口。
岡田は少年を助けようと作戦を考える。
登場人物
・岡田:雄大を助ける作戦を実行する。
・溝口:子供の頃に父親に暴力を振るわれていた。
・権藤:文房具屋。
岡田たちの乗っていたベンツに追突してしまい、お金を要求されている。
・坂本雄大:小学四年生。父親から暴力を振るわれている。
・坂本岳夫:雄大の父親。三十一歳。
ネタバレありの感想
岡田と溝口がコンビを組んでいた時代の話。
と言っても話としては岡田が虐待されている雄大を助ける話。
本来なら子供の虐待だからシリアスなものを
良くも悪くもくだらない作戦で何とかしようとするのが良い。
それもこの作戦を実行するのが当たり屋の岡田と被害者の権藤という組み合わせ。
これはものすごく好きな話。
ついでに書いておくと、
「残り全部バケーション」で岡田が回想してた文房具屋の男が権藤。
・第三章 検問
あらすじ
溝口と太田に攫われた女性、
三人がある場所に車で向かっていると検問があって。
登場人物
・わたし:溝口と太田に攫われた女性。今年三十歳になる。彼女の視点で語られる。
・溝口:女性(わたし)を攫って連れて行く依頼を受けている。
・岡田:溝口と組んで仕事をしている。
ネタバレありの感想
盗難車で検問にあい、
トランクに札束があったにも関わらず警官は見過ごしたという話。
これだけだと全く理解できないと思うけど、
話としては綺麗にまとまっている。
だけど、一番面白いのは会話かな。
太田が良いキャラをしている。
ついでに書いておくと、
「残り全部バケーション」で溝口が言っていた「政治家の愛人の写真を撮れ、
田中だか佐藤だか」の田中が背中を刺された田中衆議院議員かな。
・第四章 小さな兵隊
あらすじ
問題児の岡田君と一緒のクラスの僕。
お父さんから「先生のこと、気をつけろ」と言われ、
ある日、岡田君に「弓子先生は危険なの?」と訪ねると、
「なんで知っているんだ」と言われて・・・。
登場人物
・僕:小学四年生。
・岡田:僕のクラスメイト。
・弓子:僕の担任の先生。
ネタバレありの感想
岡田が小学生時代の話。
これは面白かった。
『逆ソクラテス』の時に書いたけれど、
伊坂さんの書く子供が主人公の話はかなり面白い。
しかも、溝口や太田が登場したりと連作短編集ならではの面白さが随所にある。
岡田が語る弓子先生と母親の違いは『逆ソクラテス』を彷彿とさせる。
ついでに書いておくと語り手である「僕」は、
「残り全部バケーション」で岡田が語っていた
そこそこ親しくなった同級生で新聞に載った映画監督であり、
「タキオン作戦」で岡田が語っていた同級生の父親がスパイの同級生である。
・第五章 飛べても八分
あらすじ
仕事でもないのに当たり屋をやって、骨折をして入院することになった溝口。
溝口が入院している病院に毒島も入院していて。
登場人物
・溝口:五十代半ば。ネット上の「食べ歩き日記」をいつも見ている。
・高田:一年前から溝口と組んで仕事をしている。
・毒島:溝口の元請け。
ネタバレありの感想
溝口が岡田の敵討ちで毒島を狙う話。
これも連作短編集ならではになっている。
「残り全部バケーション」の沙希(サキ)、「タキオン作戦」で岡田のやり方、
「検問」の太田、「小さな兵隊」での過去の話、
全てが詰まっている。
総評
良い意味でお手軽に楽しめました。
児童虐待やストーカー絡みの話を軽快なタッチで描いてる。
好き嫌いは分かれるかもしれないけれど、私は好きです。
そもそも岡田と溝口のやってること自体が反社会的なことなんだけれど
彼らのキャラクターと会話のうまさもあってそうは感じさせない。
各章はそれぞれ時代も違うので、
ただ単に岡田と溝口を主役にした短編集なのかと思いきや、
最終章に全てが繋がっているという構成。
伏線を見事に回収していくという形になっている。
とはいえ各章それぞれ単独でも十分面白くなっている。
私が好きなのは「小さな兵隊」と「タキオン作戦」。
かなりおすすめの一冊。
話の時系列としては「小さな兵隊」→「タキオン作戦」→
「残り全部バケーション」→「検問」→「飛べても8分」。
「小さな兵隊」は太田による監督へのインタビュー自体は「検問」の後になっている。